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「図書館だより第98号」と教員の本棚

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こんにちは!
図書館の山田です。
「図書館だより第98号」を発行しましたのでお知らせします。


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教員の本棚は、国文学科講師 細田あかね先生です。


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『ナーダという名の少女』
    角野栄子著/KADOKAWA/2014年発行/913.6 カ


 子どもが生まれたのは、ちょうど2年前の夏です。生まれた場所は、琵琶湖のほとりの産院でした。あの時のこと―。
低気圧がやってきて、雨が降りはじめ風も少し出てきた、そんな晩。破水し、夫と大慌てで(!)、ばたばた産院に駆け込みました。額に汗し、ひたすら「ふー、ふー、うーん、うーん」。外はいよいよ嵐です。陣痛の波にひたすら耐える長い一日が終わるころ、無事に子どもが誕生しました。
 分娩室から病室に戻り、少し眠った明け方。目が覚めると、部屋の窓辺はほの白く、窓からは、低気圧も過ぎ去りもうすっかり穏やかになったつるつるした湖面に、朝日が照り返しきらめいているのが見えました。そして、私のベッドのすぐそばには、昨日まではいなかった、生まれたての小さな小さな赤ちゃん。ようやく会えたねえ。子どもがこの世界に生まれたあの日の朝の風景を、私は生涯忘れることはできません。
 さてさて、私がみなさんに紹介したい本は、角野栄子作『ナーダという名の少女』です。「あんたの世界の始まりっていったら、どこ?」。登場人物のナーダが、主人公アリコ(15歳の少女)にこのように問いかける映画館でのシーンから、物語は始まります。急にこんな風に聞かれたアリコは、〈始まりの場所なら、生まれたこの町、リオ・デ・ジャネイロだけど……。いや、そうじゃない。それはもっと違う意味のある、もっと特別な場所のはず。思い出したら涙がにじんでくるようなところ〉だと、戸惑いながらも考えます。皆さんなら、自分の世界の始まりの場所を聞かれて、どこって答えますか。
先を急いで言ってしまうと、この物語は、アリコが自身のルーツを辿るお話と要約できるでしょう。アリコにはお母さんがいません。幼いアリコを置いて家を出、その後亡くなってしまったのです。アリコはお母さんについてほとんど知らず、心の深いところでは、自分は生まれなければよかったと考えています。そんなアリコが、お母さんの生まれ育ったところを見るべく旅に出るのです。そして、旅の終わりには、自分の存在の起源である〈始まりの場所〉へと戻っていきます。裏表紙に、始原としての世界樹や子宮のモチーフが描かれているのは、とても象徴的。
 アリコが行き着いた〈始まりの場所〉ってどんなところでしょう?皆さんも本を開けて、どうぞ物語を体験してみてください。いつしか、読者であるあなたは、アリコとは全く別の人生を生きているにも関わらず、あなた自身の〈始まりの場所〉にまつわる記憶を、アリコとアリコのお母さんの物語に重ねることになるのではないでしょうか。私も、すっかり物語にひき込まれて、先に記したような我が子の誕生やら、色々なことを思い出しました。そして、一面では悲しくもあるこの物語。それでも、読み終わった後、心がすこし元気になっている―。
 カーニバルで知られるブラジルのリオが物語の舞台ですから、夏の強い陽射しと熱い風を感じながら、読んでみてください。この季節に、おすすめの一冊です!

(国文学科講師 細田あかね/図書館だより第98号より)
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図書館だよりは図書館2階文庫棚上にあります。 また、教員のおすすめ本はカウンターに展示しています。貸出もできますので、ぜひご覧ください。